自慰/小スカ


「もういい飽きた、とってやる」
ルーのペニスにつけていた輪を外した。
素直に顔を輝かせる彼も愛らしい。
「では、出て行け!」
「出て行く義理などない」
「こちらこそ、貴様を置いてやる義理などない」
「晩飯はカレーがいい」
「……」
ルーは料理が下手だ。
もしかすると吸血鬼には料理をする習慣などないのかもしれないが、それにしても不器用だと思う。
「お前を養うためにも金が必要だ」
「私は血液さえあれば生きていける」
「しかしもう街にはいけない。なにより栄養が偏る」
栄養云々など知らないが、ルーはそれで押し黙る。
「帰りには絆創膏も買ってこよう」
ルーが僅かに頬を膨らますのを見て屋敷から出る。
端麗な容姿、優雅な動作、そして時折見せる子供っぽい表情。
「女どもがノコノコとついていってしまうのもわからんではないな」
彼は女にとって最初は素敵な殿方程度の印象なのだろう。
しかししばらく付き合えば、放っておけなくなるような穢れ無き危うさも見えてくる。

「ルーという美貌の吸血鬼を知っているか?」
「……ルーツィア・ロルフ卿のことか?」
僕はルーの本名を知らなかった。
向こうが言ってこないどころか、僕の名すら聞いてこないのに、こちらから聞くのも格好悪い気がした。
「舌を噛みそうな名だな」
「奴には手を出さない方がいい、手強いぞ」
なんだと。
「それがもう出してしまった」
「何!?」
「まあ、そうだな、やるまでは結構簡単だったんだが……二度目がまだできない。手強い」
「……」
「もう、毎晩大変だ。寝顔を見るだけで……しかしあまり機嫌を損ねると殺されそうだ」
「お前、まさか」
「手強いんだがな、抜けているところもあって可愛らしい。何故今まで誰にも狙われなかったんだ?
 屋敷を出て行けと言うくせに、手を傷だらけにして料理を二人分作って待っていてくれる」
「あのロルフ卿を……」
「羨ましいだろう? お前になど見せてもやらん」
「どうやった」
「なに、森の奥の屋敷の地下で寝ていたところをな……」
黒い石の輪のことを話す。
「なるほど、そういう攻め方には弱いのか……」
腑に落ちないというような顔をする情報屋。
しかしルーは僕がそばに寄ったのに目覚めもしなかった。
「最初から首を狙えば一撃ではないか?」
「奴は異常なまでの再生力を持っている」
なるほど、傷の治りも早い訳だ。
今まで遠慮していたが、そうと分かれば滅茶苦茶に抱いても大丈夫だな。
「あと、手ごろな強さ手ごろな儲けの吸血鬼を紹介してくれ」
「これなんかどうだ?」
数枚の書類を受け取る。
「なんだ、金じゃないのか。正直なところそろそろ蓄えが底をつくのだが」
「いいじゃないか。で、対価は? 二つ分な」
「一つ目は雑談だ。もう一つはあとで報酬を半分やる」
ガキの頃、身体で払った屈辱は忘れない。
単なる肉体労働かと思っていたらあんなことやこんなことを……
ルーを抱く際役に立たなかった訳ではないが、恋人ができてしかも抱く立場である今、他の男になど抱かれてたまるものか。

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