「最後なんて言わないでよ!」
ユキが、いつものユキに戻った。
「僕はサツキを普通に愛するんだから!
 今日はちょっと失敗しちゃっただけなんだから!」
言うと、サツキの首に腕を回す。
「でも、キスはしてあげるよ!」
女装したままのユキと、一応装束を整えたサツキ。
普通の男女のカップルにも見えて、なんとなく気持ちが暖かくなった。
「何を見ておる愚か者」
少年の姿に戻ったものの、ふさふさした尻尾を生やしたカンナに額をはたかれる。
「余の方が、ずっと前からサツキを愛していたのに。
 サツキが余と一緒になれば、余は女の姿をすることもできるし、料理洗濯もできるし、
 柳や幸也よりずっと大事にしてやるのに。亭主関白できるのに。
 サツキはきっとエムだから、あんな変態どもに惹かれるのだな。見損なった」
余裕の笑みから、だんだんと表情が崩れ、目には涙が浮かんでいる。
「……失恋? 違うな。余がサツキを振ったのだ」
見た目の年齢相応に悔しそうに泣くカンナに安心する。
「…………サツキの馬鹿ぁぁ!」
ユキとの濃厚なキスを終えたサツキに飛び掛る。
サツキはカンナを抱きとめて、頭を撫でながら謝る。
「済まないカンナ、お前が私を好いていたなんて、さっき始めて知ったのだ。
 お前のような者を好きになれたら、私も苦労はしていないだろうに。
 だが、お前は同じくらいの歳の妖狐の娘と一緒になった方が幸せだろう。
 カスミは元気にしているのか?」
「馬鹿! 馬鹿!! サツキの鈍感野郎!
 べつにお前だけを好きだなんて言ってないし! カスミが本妻だし!
 お前ちょっと綺麗だから、妾にでもしてやろうかなって思っただけだし!
 あとカスミは雄だし!」
泣きじゃくりながら叫ぶカンナに、サツキは狼狽気味だ。
「そうだったのか、綺麗な娘に化けた姿しか見たことがなかったから」
そしてサツキはたしかに鈍感野郎だ。乙女心というものを分かっていない。
もっとも、この場に乙女と言える者など、いないといえばそうなのだが。
しかし、俺も、そんなサツキに惹かれている。
ややこしいことになりそうだから、絶対誰にも言わないけど。
「ねえサツキ、僕外国に行って君と結婚しようと思うんだ。この国じゃ男同士は結婚できないから」
「なっ、何を言っている! 当主と下僕とが、け……結婚などと……」
「下僕だなんて思ってないよ、サツキは僕の恋人だもん」
「しかし……」
「あ、サツキ、女の子の格好になれるんだっけ」
「一応……」
「じゃあ、それで結婚しよう。外国に行くとお金がかかるもん。
 その時だけ我慢して、その後はずっと男でいればいいや。
 ねえ、一回女の子になってみてよ」
「……」
サツキは立ち上がると、恥ずかしそうに俯いて、変化する。
「…………わあ! 可愛い!」
背が高くガタイもいい方だったサツキとは思えない、10歳くらいにしか見えない赤い浴衣を着た華奢な少女が立っていた。
いつも後ろでまとめている髪は、今は肩の上で切り揃えられている。
「でも、これじゃ結婚できないや。もっと大きくなれないの?」
「それが、できないのだ。柳様は、私が乙女心を解さない所為だと仰っていたが……」
「じゃ、これから乙女心を教えてあげるね。もっと大きくなれるようになったら結婚しよう!
 結婚した後も、たまにはその姿になるのもいいかも!
 セックスはできるのかな? 処女……だよね?」

今確信した。ユキはホモなんじゃなくて、ただ変態なんだ。

「私は構わない。
 化け直すたびに傷が全快するので、おそらくは……」
「え? もうヤられたってこと? 柳に?」
「あ、ああ……やはり、気持ちのいいものではないのか……?」
「まあ、いいや、僕の方が上手いし。
 子供ってできるのかな?」
「……この姿では、月のものがこないから、孕む心配はないと思う。
 年齢を上げることができたら、分からないが……」
「ユキ、セクハラじゃないのかそれ?」
少女の姿のまま恥ずかしそうに、しかし律儀に答えるサツキに、俺が居たたまれなくなってきた。
「ごめんごめん、もう聞かないよ。じゃ、大きくなったら結婚してね」
サツキにまた口付けを落とすと、ユキは楽しそうに笑った。

今のサツキが幸せそうだから、僕のこの想いは墓場まで持っていく。

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