自慰/食糞
「目が覚めたかい?」
霞んだ視界の中に、金に近い茶色が、白が、揺れる。
「立てるか?」
私は何をしているんだろう。記憶がはっきりしない。
「なんとか言えよ」
「ぐ゛……!」
腹部に衝撃が走り、目が覚めた。
「キルト・セリース、君は今日から我が国の戦士だ」
「テッドネス……!」
目の前には、敵国の魔道士兼科学者、セイレン・テッドネスが立っていた。
「出来はどうかな? ちょっと立ってみろよ」
「……」
服を脱がされた私の首には沢山のコードが繋がった黒い首輪が嵌められている。
また、頭にも何かつけられているらしい。
「服を……」
「そのために立ってって言ってるんじゃないか」
多少ふらつきながらも立ち上がる。
「ここまで走ってこい」
歩きかけると、首筋に電流のような刺激がある。
「僕の命令をきかなければ命はないよ?」
自慢ではないが私は筋金入りの運動音痴だ。
できるだけ不様な見た目にならないようにと気を引き締めて走る。
「お〜」
次の瞬間、私はテッドネスの目と鼻の先でバリアらしきものに叩きつけられていた。
「……?」
「君、その場を一歩も動かずに、また一滴の血も流さずに敵軍を壊滅させたとかっていう、世紀の魔道士セリース様だろう?」
それは本当だ。ただ、一歩も動かなかったというのは……
「しかし敵を眼前に一歩も動かずってのは魔道士として威張れることじゃないと思ったんだよね。
ホラ僕も魔道士のはしくれじゃないか?
走り回って敵を包囲、叩き潰すのじゃなくできるだけ少ない魔道力をもって無力化するのが魔道士の仕事だろう。
敵軍全体に効くような攻撃魔道、術者の命を削ることがほとんどなんだから」
そう、その通りなのだ。
魔道の才を持つ者は少なく、育成にも多額の国費をつぎ込んでいる。
命を削って攻撃するのでは、戦える魔道士などすぐに絶滅してしまう。
「どんな野郎かと思って見に行ったら、こんな気位の高そうなお兄さんでさ」
バリアは私にしか効かないらしく、テッドネスの手がこちらへ来て私の髪をすくう。
「何か動けない理由があったに違いないと思ったんだよね」
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