「セイレン、例のウサギの件で所長が呼んでたぞ」
「そっか……」
同僚に言われ、所長室へ出向く。
「テッドネスです」
「入れ」
僕がキルを愛してしまっただなんて知らない所長は、ごく事務的にたずねてくる。
「キルト・セリースの件だが」
「ええ……最初は人の理性の獣の身体能力、更に世紀の魔道士と称された魔道力を併せ持つ最高の兵器でした。
しかし、彼はどうも獣に理性を喰われてしまったらしい。
他の実験ではこうはならなかった。
魔道力、白い髪や赤い瞳、運動能力の低さ……何と関連があるのかはまだ分かりませんが」
「研究したい気持ちは分かる。しかし今必要なのは即戦力だ。
キルト・セリースへの国の期待は大きかったが、失敗した今もう費用は出ないだろう」
「分かってまいす。
彼は、他と同じように服を脱がせて檻に入れ、維持費をかけないようにします。
理性のあった彼には自由や権利を保障したが、ああなった今この約束を守る必要はない」
「たしかに廃棄するには惜しいか……。では早速移動を行え」
自室に戻った途端、堰を切ったように涙が溢れる。
「キル……」
「僕の所為だ、僕が君を捕まえたから。改造したから。
でも、ちょっと嬉しいんだ、檻の中の獣たち、触るの僕だけだもん……。
……今思うと、初めから好きだったのかもしれない。手に入れたかったのかも……」
キルは僕の言うことしか聞かないので、僕が直々に出向いて部屋を移動させる。
「せいれん、ここ、どこ?」
不安げな瞳に心を抉られる。
「キル、ごめんね、こんな所に閉じ込めて。
僕が必ず元に戻してあげるから。これからの人生をかけてでも、必ず……!」
「せいれん、ないてる?」
「僕、君が好きだよ、キル。君を襲った不幸は僕の所為……。
必ず、救うから、だから、赦して、キル…………」
「きる、しあわせだよ」
「おへやはせまくなったけど、せいれんはきてくれるんでしょう?」
「…………」
肯定できなかった。
僕は君を治すため、これから君と同じ魔道や白い髪を持つ者を手当たり次第に改造する。
「キル、ごめん、僕忙しくて来られないかもしれない」
今の君を見ると辛いから。自責の念で潰れてしまいそうだから。
「せいれん、きてくれないの? きる、さみしいよ……」
「君のご両親が、移民としてこの国に来てたらよかったのにな」
そうすれば、ただの同国の魔道士として出会えていたかもしれない。
才能はなかったけれど、僕だった魔道学校に通っていたんだから、そこで知り合えたかもしれない。
「ごめんね、ごめんね、キル……」
待ってて。必ず元の君に戻すから。
そして、それでもまだ、僕に愛を囁いてくれるなら──
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