「ん……ジェイル……」
名前を呼ばれ、始まったか、とため息をつく。
「ジェイル、どうだ、気持ちいいか……?」
嬌声が聞こえていた時よりも更に居たたまれない気持ちになる。
「後ろの穴が、もの欲しそうにひくついてるぞ」
やたらはっきりとした発音に、本当に寝ているのだろうかと疑うが、国王の寝床を覗くわけにもいかない。だいたい、もし起きていたら気まずすぎる。
「挿れる……ぞ……」
もう聞いていたくない。しかし耳を塞いでいて侵入者に気付けなくても困る。
「どうだ、俺のは……」
どうすることもできないまま、セーファスの声が止むのを待つ。
「どうしたジェイル、ここ最近元気がないぞ」
「別に……なんでもありません」
あなたのせいですとも言えずに顔を逸らす。
「無理は禁物だぞ」
「分かっています」
国王が去ると、大きなため息をつきながら宿舎に向かう。ジェイルはこのところ夜間警備ばかりしているので、昼間に眠ることになる。
それというのも、ひと月ほど前に夜間警備を担当した週から、国王の昨夜のような寝言が始まったからである。今までこんなことはなかったし、前の週の担当に聞いてみても国王は寝言一つ言わずに眠っていたというので、これを聞いたのは自分だけのはずである。セーファスの名誉のためにも他の者に聞かせるわけにはいかないと、ジェイルは皆が嫌がる寝室の夜間警備を代わってやっていたのだ。
シャワーを浴びた後、宿舎で眠っていると、何かがジェイルの髪に触れる。
勤務中は後ろになで付ける髪が降りていて、耳や顔を隠していた。それを見てにっこりと笑うサーシャ。洗濯物を取りにきたようだ。
「こうしているとなんだか可愛いですね」
「余計なお世話だ」
髪をかき上げながら半身を起こし、眠そうに言うジェイル。
「昨夜侵入者でも居たのですか? 最近なにかと物騒ですから……」
「……いや、」
「では、国王が何かしでかしたとか?」
「……いや、何も」
ジェイルは、手入れをしている訳でもないだろうにやたらと整った眉をしかめて言う。
「お疲れのようですね。どうぞお休みになっていて」
言うと、良いものを見たというような笑顔でサーシャは去って行く。
「……疲れているんだろうか」
いつもなら触れられる前に気配に気付けるはずである。
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