「どうした、腰掛ければ良いのだぞ?」
 天蓋付きのベッドの中に自分の立つ場所はない。しかし天蓋を開け放しておいていいのだろうか……と、悩んでいる様子のジェイルに国王は言う。
「……では、失礼致します」
 足元側の端に座り、居心地悪そうにしている。
「もっと近くへ来い。もしもの時には迅速な対応が必要だ」
 中心よりは少し頭側へ近付くへ移動したジェイルに、では俺は寝る、と声をかけ、国王は眠りにつくふりをする。
 暗殺者の話など真っ赤な嘘だ。あわよくば犯してやろうと思っていた。この日のために毎晩女も男も抱いて技を磨いた。
 昨日たしかにサーシャは妹のような存在だと言ったが、その時の彼の顔はどこまでも優しかった。もしかしたらと焦り、隣国との関係が悪化している今なら不自然ではないだろうと、実行を決心したのだ。
 1時間程過ぎた。
 セーファスは複雑であった。暗殺を用心してか、全く気を抜かない護衛官。それは嬉しい。しかし、手が出せない。
「……ジェイル」
「何でしょう」
 王が寝付いていないことには気付いていたようだ。それが分かった王は、名案を思いついた。
「ジェイル、俺と寝てくれ」
「…………」
 国王の方を振り向き、黙ったまま、真意を探ろうとする。
「俺は、不安なのだ……」
 偉そうにしていてもまだ18歳、自分より9歳も年下のセーファスの言葉を聞いて安堵し、またしても頭に浮かんだ想像を振り払う。
「ご安心下さい、私が必ずお守りします」
「そう言うなら、俺の隣で寝てくれ。ほら」
 少し表情を緩めて言うと、ブーツを脱ぎ、恐る恐る国王の隣へ横たわる。遠慮して中途半端に間を開けたが、すぐに国王に引き寄せられる。
「俺のことはお前が守ってくれるだろう。だが、お前のことは誰が守る?」
「私は……。…………陛下のためなら、私の命など……」
「俺は不安で仕方が無い。お前がいつか死んでしまうのではないかと……」
「………………」
 いざとなれば命をも捨てる覚悟でこの仕事に就いたジェイルは、大丈夫、とは言えなかった。

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