ジェイルは慌ててまた体育座りをする。
盆を持って入ってきた侍女はきょろきょろと部屋を見回すと、ぎょっとしたようにケージに目を止める。
「ジェイル様!?」
「……エミリア……」
「セーファス様に犬がいるからエサをやってこいと言われて……」
「……ああ、俺のことだ。……あまり見ないでくれ」
「す、済みません! あ、あの……」
「事情は予想がつく」
数ヶ月前に借金のかたに売られたらしい金髪碧眼の美しい少女が奴隷売りに連れられて「犬」として城へ来た。
国王は何らかの形でジェイルを困らせて楽しむのに使おうと購入したが、なんとなく自分と同じカラーリングの美少女をジェイルに見せる気がしなかった。
裸のまま一人きりで放って置かれている少女がいると知ったジェイルが事情を聞き、それくらいなら女中にしろと国王に申し出た。
「あ、はい……あの、ごめんなさい……」
「奴のことだ、俺を逃がしたら解雇するとでも言ったんだろう。まったくあの変態め。大丈夫だ、鍵を開けてもお前を襲って逃げたりはしない」
ジェイルは決して他人を犠牲にするような真似はしない。まして彼女はか弱き女性。
セーファスはジェイルが絶対に逃げられないと計算してエミリアを差し向けたのだろう。
「ごめんなさい……その、これもセーファス様がご用意なさって……」
エミリアは檻の鍵を開けると盆に乗っていた銀色の小さな器を二つケージの中に置く。
片方にはミルクが入っており、もう片方には煮られた野菜の切りくずのようなものが入っている。
いい香りがするからおそらく悪いのは見た目だけで犬にやるようなものではないのだろうが、気分のいいものではない。
そしてスプーン等はついていない。
「……どうせ何か入っているのだろうな」
「あの……何か別のものをもってきましょうか……?」
「いや、いい。腹は減っていないし、お前が咎められてもいけない」
「その……」
「気にするな、行け」
「ごめんなさい……」
エミリアが去っていったが、セーファス直々に用意したという「餌」を食べる気もしない。
「どうしようか……」
また胡坐をかこうとすると、エミリアが戻ってきた。ジェイルは慌てて体育座りをする。
「せ……セーファス様の言伝で、絶対に腹に入れさせろと……」
「……」
「見届けたら食器を持って報告に来いと……私が食器を持って出て中身を捨てれば……」
「いや、食べよう……」
食べ物に罪はないし、おそらく何かの薬が入っているから食べなければバレる。
そしてそれ以上に、彼にとって国王の命令は、例えこんなお遊びであれ、絶対なのである。
申し訳なさそうな顔で床に膝をつき、エミリアがゲージの扉を開ける。
「ジェイル様、せめて……」
スプーンを取り出すと、野菜くずを掬いジェイルの口元に運ぶ。
「済まない」
国王は知れば怒るだろうがこれに関しては何も言われていなかったから言い合いになっても勝てると判断し、躊躇なく口をつける。

単純に食べにくいから、この申し出を断ってもどちらにせよ食べ終わるまで見届けられるのだから、等の理由による合理的判断だとは分かっている。
それでも……、嬉しさから固かったエミリアの表情が少し綻び、白い頬にうっすらと朱が差す。
「……いや、自分で……」
「あ、そうですよね、ごめんなさい!」
差し出されたからつい口をつけてしまったが、腕を拘束されている訳でもないと気付いたジェイルにエミリアはスプーンを渡す。
ジェイルが野菜くずを食べ終わるとエミリアも国王の機嫌を損ねる行為だという認識はあったらしく手際よくスプーンを取り返し仕舞い込む。
生暖かいミルクの皿に口をつけて流し込んだジェイルの唇についたミルクをエミリアが指先で拭う。
「エミリア! 俺のジェイルに触ったな!」

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