「カンナくん、僕はサツキの主人だ。事情を知る権利があるよね?」
少年の姿で床に座り込んでいたカンナにユキが威圧的に言う。珍しく怒っているのかもしれない。
「もとより聞かれずとも教えてやるつもりだ。余はその昔、ただのいたずら狐だった。
 村を荒らしていたのでそなたらの先祖、藤村柳とそのしもべであったサツキに退治されることになったのだ」
「……」
「当時の余の妖力などでは太刀打ちできず、余は簡単に追い詰められた。
 柳は余を殺すつもりだったようだが、サツキが更生させて訓練すれば戦力になると言って庇ってくれた」
「それなのに、サツキを……」
「余はサツキと共に柳に飼われることになった。
 そしてある時から、サツキは夜な夜な柳に呼ばれていた。
 余を差し置いて何をしているのかと覗いたら、……」
「余は理解した。主人の性処理も我等の役目なのだと。しかし何故か二人のことが憎くて仕方が無くなった」
「あの夜、サツキは絶対に嫌がっていた」
カンナが怒りに身を震わせると、彼の言葉は色々な方向から高く低く聞こえてくる。
「柳はサツキに人間の姿だが耳と尾が犬のものとなった状態にさせた」
「そして目隠しをして柱に縛りつけると、」
「体毛を全て剃り焼けた鉄棒で痛めつけ刀で傷つけ」
「縛りを解いたら次は犯して中で用を足し」
「猿や馬に犯させながら四肢を切り落とし」
「雪の中に放り出し開いた尻の穴に雪を入れ」
「冷たがると今度は火のついた薪を突っ込み…………」

「だから、余は柳を殺してやった」

「……」
黙り込む俺とユキ。
「それなのに、サツキは余の頬をはたき、子供に対するように叱り付けた。
 吾等の義務は主人に忠誠を誓い何を為そうとついていくことだと。
 そしてこれは償いなのだ、とも」
「ちょっと待って、サツキは腕を……」
「たしかに切り落とされた。しかしサツキは神だ。人間の所業ごときで滅ぶことなど有り得ない」
「……サツキは僕がいけない事をしてもついてきてくれるのかな?」
ユキの唐突な質問。
「そなたは、柳の生まれ変わりか?」
カンナは気を悪くした様子も無く続ける。
「……それは……僕には分からないけど」
「その前髪の所為で気付かなかったが、そたなは柳に瓜二つだ」
やっぱり。
「……そう」
「そして柳も、元々下衆だった訳ではないらしい。優しい男だった……とサツキは言っていた」

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