「よォ、ねーちゃん。どーだい、ちょっと俺らに付き合わねぇ?」
嬉しさのあまりかサツキより数メートル先を歩いていた幸也は、いかにも柄の悪い男たちに声を掛けられる。
「やーよ、サツキくんの方がかっこいいもん!」
「サツキぃ? 彼氏さんかい? 女みてぇな名前だな」
「むぅっ! そこがいいんじゃない!」
「幸……ユキ……ちゃん……は、私の主人だ。連れて行くと言うなら容赦はしない」
「主人〜? 女王様ーってか? お前M?」
「えむ……とは?」
「やだー! サツキくんに変なこと吹き込まないでよぉ!」
「ハハッ、いじめられて喜ぶ奴をエムってんだよ」
「いじめ……柳様のことは敬愛していても、嬉しくはなかったな。私はエムではない」
「何、お姉ちゃんヤナギって言うの? 彼氏と名前逆の方がよかったんじゃね?」
「ユキちゃんって言ってんじゃん! もうっ! 怒った! 消えうせろクズ共!」
「んだとこのアマぁ!」
男たちの一人が幸也の腕を掴みビルの間へ引き摺り込む。
「やだーぁ! 汚されるぅ! 助けてサツキくんっ!」

「ユキちゃんは私の主人だ、手を出すなら容赦はしない」

真顔のサツキが脳に響くような声で言い放つ。
「……!」
途端顔面蒼白となった男たちは逃げていく。

「助かった! ありがとうねサツキ」
「ユキ……ちゃん……さんではいけないか?」
「だ〜め! ユキちゃん!」
「……ユキちゃん、わざと身を危険に晒すようなことは……」
「だぁってぇ、サツキくんが絶対助けてくれるんでしょ!」
「…………」


「どう! これどう! イケてるくない!?」
「……ユキ……」
家に帰るのも面倒だった俺はゲーセンへ行った後昼食を取りにファーストフード店に来ていた。
するとこんな店には似合わない格好のユキとサツキがやってきた。
人目について仕方が無い。はっきり言って居た堪れない。
「サツキは元がいいんだから、やっぱりいい服を着せてあげなきゃ!」
「悪かったな」
ユキが選んだのであろう服を着せられたサツキは顔だけ見るとやはり男前だ。
しかし結んでいた髪を解いて背に流し、キャメル色のコートを着せられている様子はどことなく女性的だ。
軽く俯いたその顔は存外白く、伏せた瞳にかかる睫毛は長く、綺麗にも見えるので似合っていない訳ではない。
「着替えてから感じる視線が増えたのだが、やはり私の格好がおかしいのではないか?」
「いや、ユキともども目立ってるだけだよ」
「サツキったらかっこいいしかわいいから!」
ユキはオカマだと思っていたが、サツキに女性的な格好をさせるということは、男の部分が死んだ訳ではないのだろうか。
なんにせよ変態に違いは無い。
「あとね、とっておきがあるんだ」
ユキは嬉しそうに手に抱えた袋を見せる。
「帰ったらカズも一緒に遊ぼう!」

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