「あらあら、大変だったのね」
ふざけた口調で言いながら私の頭を撫でるテッドネス。
「君、綺麗だから、そいつはずっと狙ってたんだろうね。
 真っ白の長い髪、これまた真っ白でキメ細やかな肌、深紅の瞳に長い睫毛。
 背が高すぎるし、痩せすぎだし、何より男だから、僕は挿れたいと思わないけれど」
「ふざけるな!」
白い髪も紅い瞳も、日に当てようが焼けない肌も身長の割に軽すぎる身体もコンプレックスだ。

「ウサギみたいな色だよね」

私の怒りは意にも介さず、テッドネスはにやにやしながら眼鏡を掛け直す。

「実は、そんな君に、ウサギの遺伝子を合成してみたんだ」

「な……!?」

「よく似合ってるよ、ウサミミ」

おそるおそる頭に手をやる。
何かの器具がつけられているのだとと思っていたが、触ってみると耳が生えている。

「尻尾も生えているんだよ。
 君は野山を誰よりも早く駆け上る、改造人間ってわけさ」

先ほど、瞬間移動のように思えたのは、経験したことのない速さで駆けたからだったのか。

「僕らの為に働くというなら、それなりの権限と自由をあげよう」

「……私に祖国を裏切れというのか」

「君の祖国の同僚たち、ほとんどが君のこと、あの役立たずやっと消えたか、て言ってるよ
 あと、もう一発ヤりてぇとか、俺もヤってみたかったとか、そういう奴らもいるけど」

「……」

嘘だ、とは言えなかった。

「少し、考えさせてくれ」
「今決めて、他にも仕事があるんだ」

あの国に生まれたから、あの国で王城に仕えていたが、私は祖国に特別な感情など抱いていない。
両親は移民だし、もう他界してあの国に住んでいる訳でもない。
こんな容姿の上にどこの馬の骨ともしれない移民の息子だから、子供のころから皆に避けられていた。
生き別れた双子の弟がいるが、彼はおそらくあの国にはいない。敵国の良家の養子になったと聞いた。
……瞳こそ赤かったが髪は綺麗なライトブラウンで、運動ができて友達もいて、いつも一人ぼっちの根暗な兄貴などいないかのように振舞っていた。
王城でも同僚は私のことをを邪魔者扱いか、せいぜい女扱いしかしない。
助けた見返りに私に屈辱を与えた男の姿が浮かぶ。

考えてみれば、何を迷うことがあるというのだ。

「分かった……私はこの国に仕えよう」
「よし、誓ったね? 君は自由の身だ」

バリアが解かれたらしく、手を引かれると向こうへ行けた。

「ちなみに、僕やこの国に逆らったら、まず首輪の電流で気絶させて、死よりも辛い拷問にかけられるからね。
 それを踏まえて、僕のことはセイレンって呼んでね。苗字呼びって嫌いなんだ」

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