ここへ来て一週間ほどが過ぎた。
私はそれなりの広さの部屋を与えられ、食事も出るし冷暖房も完備で、快適に過ごしている。
干草のようなものが主食なのが気に入らないといえば気に入らないが、これが美味しく思えるので仕方がない。
セイレンによるとウサギの遺伝子の作用らしく、肉や菓子類も食べてみたが胸焼けがして戻してしまった。
それからウサギは夜行性らしく夜は眠れず昼間は頭が働かないのだが、主な仕事は夜間の奇襲だから問題ないそうだ。

「よっ、元気にしているかい」

セイレンがノックもせずに入って来る。

「体調はどうだい? 痩せたようだけど……」

毎日聞かれていることだ。
いつも異常はないと答えているのだが、実は毎日午前中腹の調子が悪い。
慣れない環境の所為かと思っていたが、こう毎日では不安になる。
「実は……黙っていたが、ずっと腹の調子が悪い」
「ピーピー? それとも出ないの?」
デリカシーのかけらもない質問。
「……下痢気味……午前中だけ……」
「照れることないって、俺は研究者だから、実験動物の状態はしっかり把握しなきゃ」
フォローのつもりかもしれないが、こう面と向かって実験動物と言われるのは気分のいいものではない。
「じゃ、今も調子悪い?
「……ああ」
「ここにうんちしてよ、今」
「…………」
銀色の容器を差し出される。
「手洗いでしてきては……」
「ダメだ、僕には見届ける義務がある。
 君は知らないだろうけど、大変なんだぜ。
 できるだけ君にストレスをかけずに、細かい記録をつけなきゃいけない。
 これくらい協力してくれよ」
「……しかし……」
「男同士じゃないか。
 男って友達同士一緒に海に向かって立ちションしたりするもんじゃない。
 それと変わらないだろ?」
友達などできたことがないので知らなかった。
「…………では、お前は私の友達になってくれるのか?」

つい口に出てしまった言葉に、セイレンが呆けた顔を向ける。

「い、いや、何でもない、忘れてくれ」
「はは、世紀の魔道士様は寂しかったんだ!
 いいよ、僕は君の友達さ。だからさっさとうんちして」

なんだか丸め込まれたようだが、私は諦めて銀の容器に尻を向けてかがむ。
「そんなんじゃこぼれちゃうよ、ちゃんとまたがって」
「……!」
仕方なく、脚を少し開き容器を間に置く。

「…………」
便意はあったのだが見られていると出ない。
「緊張してる?」
「っ……!」
どんどん羞恥が強くなってくるが、突如柔らかい便が落ちた。
「あ……」
「うわ、すごい緑だな」
顔が赤くなっているかもしれない。
前髪で顔を隠すように俯く。
クリーム状の便を出すにつれ、緊張の為か喉が乾いてきた。
「全部出た?」
「……おそらく……」
背中を押して前に倒され、上がった尻を拭われる。
「やめ、そんな、自分で……!」
「はは、キルったら真っ赤になっちゃって」
「っ……!」

友達の証なのか勝手に名前を略されて、便の入った容器を持ち去られる。
しばらく呆然としていたが、我に返り慌てて下衣を身に着けた。
そしてセイレンが挙げた例と同じことだというのならセイレンも排泄すべきだったと気付くが、見たかった訳でもないので気にしないことにした。

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